— 30秒でわかる結論 —

Q. 指定申請の準備中に処遇改善加算を知りました。開設してからでは間に合いませんか?

指定日から算定したいなら、指定申請と同じ時期に動く必要があります。処遇改善加算は届け出た月からしか算定できず、さかのぼって取り直すことができません。開設して軌道に乗ってから考えると、その間の加算額は戻ってきません。開業前に決めるのは4つです。①どの区分を取るか②誰にいくら配るか(配分ルール)③賃金規程・雇用契約にどう落とすか(賞与だけの支給では月額賃金改善要件を満たしません)④職場環境等要件の取組。金額の感覚としては、放課後等デイサービスで報酬総額のおおむね11.9%〜16.1%、生活介護で6.7%〜9.7%です。令和8年6月からは配分の対象が障害福祉従事者に広がり、要件の一部は「年度中に対応する」誓約でも可とされたため、実績のない新設事業所でも上位区分を狙える余地があります(未対応なら返還)。新規指定時の計画書の提出時期と様式は指定権者ごとに運用が異なるため、指定申請の事前相談で一緒に確認してください。

こんな方に読んでいただきたい記事です

  • 指定申請の準備中に「処遇改善加算」という言葉を初めて見た方
  • 開設後の収支計画を立てていて、加算をいくらで見込むか迷っている方
  • 開設時の求人票に、給与をどう書くか決めかねている方

「指定の書類を集めていたら、知らない言葉が出てきました」

先日いただいたご相談です。放課後等デイサービスと児童発達支援の多機能型を、11月1日の指定に向けて準備されている事業者さまでした。物件も決まり、児発管の候補も見つかり、いよいよ書類集め——という段階で、指定権者の手引きに出てきた「処遇改善加算」という言葉に手が止まった、というご相談でした。

これは、まったく珍しいことではありません。むしろ開設準備の9割の方が同じところでつまずきます。指定申請の勉強をしていると、人員基準・設備基準・運営規程の話は嫌でも目に入りますが、報酬(お金の入り方)の話は指定が下りてからだと思われがちだからです。

ところが処遇改善加算は、指定申請と同じ時期に決めて、同じ時期に出すものです。順番を間違えると、開設初年度の原資をまるごと落とします。この記事は、その一点を落とさないためのものです。

処遇改善加算とは、ひとことで言うと

障害福祉サービスの報酬(給付費)に上乗せされる加算で、受け取った加算額の全額以上を、職員の賃金改善に充てることを条件に支払われるお金です。正式名称は「福祉・介護職員等処遇改善加算」。介護保険側の「介護職員等処遇改善加算」と対になる制度です。

ポイントは3つだけです。

  • 事業所の利益にはならない——加算額以上を賃金改善に充てるのが要件。余らせれば返還です
  • 届け出た月からしか算定できない——さかのぼりはありません
  • 金額が小さくない——放デイなら報酬総額のおおむね11.9%〜16.1%。人件費の設計そのものに影響します

後回しにすると、何を失うのか

先送りすると何が起きるか
指定日から加算を算定できない加算は届け出た月からしか算定できません。指定日にさかのぼって取り直すことはできません
開設初年度の原資を失う算定できなかった月の加算額は、あとから請求できません。年度をまたぐと取り返しがつきません
求人票に書けない開設時の採用がいちばん苦しい時期です。「処遇改善手当あり・月◯円」と書けるかどうかで応募数が変わります
賃金規程を後から直すことになる配分ルールを決めずに雇用契約を結ぶと、あとで手当を新設する形になり、職員への説明が複雑になります

「開設して軌道に乗ってから考えよう」という順番だけは避けてください。指定日から算定を始めるには、指定申請と同じタイミングで動く必要があります。

開業前に決める4つ

開業前に決めること中身決め方の目安
①どの区分を取るか加算Ⅰ〜Ⅳと、令和8年6月に新設された上乗せ区分(イ・ロ)新設事業所は要件の実績がないため、まず取れる区分を指定権者に確認。後述の「誓約」で上位を狙える場合があります
②誰にいくら配るか職種ごと・等級ごとの配分ルール。加算額以上を賃金改善に充てるのが大原則一律型(全員に月◯円)か役割傾斜型か。開設時は人数が読めないため、率ではなく額で設計すると崩れにくい
③賃金規程・雇用契約への落とし込み基本給に入れるか、独立した手当にするか。月額賃金改善要件があるため賞与だけの支給では足りません給与明細に「処遇改善手当」として独立表記できる形にしておくと、実績報告と説明の両方が楽になります
④職場環境等要件の取組入職促進・キャリアアップ・両立支援・心身の健康管理・生産性向上・やりがいの区分から所定数を選んで実施上位区分ほど必要数が増え、生産性向上の取組(現場の課題の見える化)は必須項目です

この4つは、どれも職員を採用する前に決めておくほうが圧倒的に楽です。雇用契約を結んでから配分ルールを作ると、「入職時の説明と違う」という話になりかねません。

令和8年6月の拡充で、新規開業者に有利になった点

令和8年度は、令和9年度の定期改定を待たない期中改定が行われました。新しく開業する方に関係するのは、次の3点です(厚生労働省「令和8年度障害福祉サービス等報酬改定における改定事項について」2026年2月18日/2026年9月10日確認)。

  • 配分の対象が広がった——「福祉・介護職員」だけでなく障害福祉従事者を対象に、幅広く月1.0万円(3.3%)相当の賃上げを行う措置。事務職員や送迎の運転手にも配れるようになりました
  • 上乗せの区分ができた——生産性向上や協働化に取り組む事業者向けに、加算Ⅰ・Ⅱの加算率を上乗せする区分(イ・ロ)が新設され、福祉・介護職員に月0.3万円(1.0%)相当の上乗せ
  • 相談支援にも新設——これまで対象外だった計画相談支援・障害児相談支援・地域相談支援に、加算率5.1%で新設されました

新設事業所にとって大きいのは、令和8年度は「年度中に対応する」という誓約でも要件を満たせる扱いがあることです(キャリアパス要件Ⅰ〜Ⅳ、職場環境等要件の一部)。実績のない開設初年度でも上位区分を狙える余地があるということです。ただし実績報告書で未対応が確認されれば加算額の一部または全部を返還することとされています。「誓約したら必ずやる」が前提の仕組みです。

加算率の目安

サービス加算率の幅(令和8年6月〜)
放課後等デイサービスおおむね11.9%〜16.1%
児童発達支援おおむね11.7%〜15.8%
共同生活援助(介護サービス包括型)おおむね12.1%〜16.9%
生活介護おおむね6.7%〜9.7%
就労継続支援B型おおむね7.4%〜10.9%
居宅介護おおむね30.2%〜45.6%
計画相談支援・障害児相談支援・地域相談支援5.1%(令和8年6月に新設

幅があるのは区分(Ⅰ〜Ⅳ、上乗せのイ・ロ)によって変わるためです。区分ごとの正確な加算率は、上記の厚生労働省資料と告示でご確認ください。収支計画に入れるときは、まず取れる見込みの区分の下限で置くのが安全です。

実際にいくらの金額になるかは、定員10名モデルでの年間試算で計算しています。

期限は3つ

出すもの何のため期限
処遇改善計画書加算を算定するための入口。これを出さないと1円も入りません原則、算定開始月の前々月末新規指定時の扱いは指定権者に要確認
体制届(体制等状況一覧表)加算を算定する体制であることの届出千葉県の障害児通所支援は毎月15日必着で翌月1日から適用、16日以降は翌々月1日(2026年9月10日 県ページで確認)
実績報告書計画どおり賃金改善したことの報告。不足があれば返還毎年7月末が目安(指定権者の案内で確認)

新規指定の場合、計画書をいつ・どの様式で出すのかは指定権者の運用によって差があります。ここは推測で進めず、指定申請の事前相談のときに一緒に確認してください。「新規指定と同時に算定を開始したいのですが、計画書と体制届はいつ、どの様式で出しますか」と聞けば足ります。

よくある誤解を3つだけ

よくある誤解実際
「年度末に一時金でまとめて払えばいい」月額賃金改善要件があり、加算額の一定割合以上を基本給または毎月の手当で支払う必要があります。賞与だけの帳尻合わせは要件不適合になり得ます
「加算は事業所の利益になる」なりません。取得した加算額以上を職員の賃金改善に充てるのが要件です。不足すれば返還の対象になります
「あとから遡って取れる」取れません。届け出た月からの算定です。開設初年度の未算定分は戻ってきません

当事務所の関わり方

指定申請と処遇改善加算は、同じ線表の上で動かします。当事務所では、指定申請サポート(障害福祉の指定申請・220,000円〜/税込)と処遇改善加算の届出(55,000円〜/税込)を、開設の逆算表を1本にしたうえでお受けしています。配分ルールと賃金規程は人事の実務そのものなので、企業人事15年の経験がいちばん役に立つところです。

「自分でやるか、頼むか」で迷っている方は、年間工数の試算と代行費用の比較をご覧ください。ご自分でやる前提での段取りも書いています。

要確認:新規指定時の計画書の提出時期・様式、体制届の期限、加算区分ごとの加算率と要件は、指定権者の案内・最新の告示・厚生労働省の通知でご確認ください。賃金規程・就業規則の作成や労務管理の判断は社会保険労務士、税務は税理士の業務であり、当事務所は行いません。本記事は2026年9月10日時点の一般的な整理です。

参考にした一次資料

※制度・要件・金額は改正や自治体の運用で変わります。上記は確認時点のものであり、実際の手続きの前には必ず最新の告示・要領および指定権者の案内をご確認ください。

📍 千葉県ローカルメモ|千葉県で新規指定と同時に算定を始めるには

千葉県の障害児通所支援(放デイ・児発)は、指定申請書類の提出が指定希望月の2か月前の月末(厳守)、指定は毎月1日です。加算の体制届は毎月15日必着で翌月1日から適用、16日以降になると翌々月1日からの適用になります(2026年9月10日に県ページで確認)。11月1日指定なら、申請書類は9月30日、体制届は10月15日という並びです。処遇改善計画書の新規指定時の提出時期・様式は県に確認が必要な項目なので、事前相談の際に必ず一緒に聞いてください。締切の全体像は指定申請の締切・自治体比較をご覧ください。

※2026年7月23日時点の一般的な整理です。個別の管轄・最新の運用は各窓口にご確認ください。

💬 目加多のひとこと

「処遇改善加算って何ですか」と聞かれたとき、私はいつも「職員に配るために国から預かるお金です」とお答えしています。事業所の売上でも利益でもなく、預かって配るもの。この理解が最初にあると、配分ルールも実績報告も迷いません。そして開設前に決めておくと、いちばん採用が苦しい時期の求人票に「処遇改善手当 月◯円」と書けます。制度対応を事務コストではなく採用への投資に変えられるかどうかは、この最初の順番で決まります。

行政書士 目加多龍

執筆・監修

目加多 龍めかた りょう

行政書士 × 財務・キャリアコンサルタント(目加多龍行政書士事務所 代表)

行政書士/国家資格キャリアコンサルタント/2級FP技能士(AFP)。ブリヂストン系列企業とNEC系列企業で人事・労務の現場15年を経て2026年に独立。個人向けキャリア相談はココナラで約70件・全件★5.0(プラチナランク・2026年7月時点)。障害福祉・障害児支援の指定申請を軸に、資金調達から人材の定着まで、中小企業の「手続き」「資金」「人材」を一体で支援しています。

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