— 30秒でわかる結論 —
Q. 障害福祉の事業所に合った人事制度は、どう作ればよいですか?
一般企業の型をそのまま持ち込まず、3本柱で組みます。前提として、障害福祉は順番が逆です。一般企業は人事制度を作ってから賃金を配りますが、障害福祉は国から預かった処遇改善加算を配る配分ルールが先で、昇給の仕組みはキャリアパス要件Ⅲとして加算Ⅲ以上を取るなら整備が必要です(Ⅳは要件Ⅰ・Ⅱで足りる)。①配置は単価になるが、本人に返すのは自動ではない——配置加算で増えた収入を本人に返すことを制度は求めておらず、処遇改善加算の配分ルール(経路A)と、配置加算の増分の一部を資格手当にする賃金規程(経路B・任意)で初めてつながります。手当は増分の一部にし、加算が取れなくなった月の扱いも規程に書きます。②評価は行動で——「記録が的確」ではなく「支援記録を当日中に、様子・支援・気づきの3点で書く」のように記録で判定できる項目に。当日中・24時間以内は実務の目安で、項目は5〜7個まで。③360度評価は入れない——職員5〜10人では匿名が保てず人間関係の投票になる(当事務所の見解)。協働は記名の相互フィードバックとして賃金から切り離し、代わりに現場から管理者への上向きフィードバックを1本、受け手は法人代表か外部で。障害福祉の退職理由は体調不良37.1%が最多、人間関係31.7%(福祉医療機構2020年度・事業所回答)で、記録負荷を増やす制度は逆効果になりえます(2026年9月18日時点)。
こんな方に読んでいただきたい記事です
- 処遇改善加算で上位区分を取るために、昇給の仕組みを作ろうとしている事業所
- 評価制度を作ったが、評価者が管理者1人で回っていない事業所
- 360度評価を入れるべきか迷っている運営者
「評価制度を作りたい」の前に、順番を確認します
障害福祉の事業所から「評価制度を作りたい」というご相談をいただくことが増えました。伺っていくと、たいてい別のところから始まっています。「処遇改善加算で上位区分を取りたくて、昇給の仕組みを書かないといけなくて」。
(※複数のご相談を合成した架空の場面です)
ここで、一般企業の人事制度の型をそのまま持ち込むと、現場に合いません。順番が逆だからです。
| 一般企業 | 障害福祉 | |
|---|---|---|
| 順番 | 人事制度を作る → 賃金を配る | 国から預かった加算を配る配分ルールが先 → そこに評価と昇給をつなぐ |
| 昇給の仕組み | 任意 | 処遇改善加算のキャリアパス要件Ⅲとして、加算Ⅲ以上を取るなら整備が必要(Ⅳは要件Ⅰ・Ⅱで足りる) |
| 評価者 | 複数の管理職 | たいてい管理者1人 |
| 成果の測り方 | 売上・利益など個人に帰属する数字 | 支援の成果は個人に帰属させにくい |
一般企業は、人事制度を作ってから賃金を配ります。障害福祉は、国から預かった処遇改善加算を職員に配る「配分ルール」が先にあり、そこに評価と昇給をつなぎます。しかも、昇給の仕組みは処遇改善加算のキャリアパス要件Ⅲとして、加算Ⅲ以上を取るなら整備が求められます(加算Ⅳは要件Ⅰ・Ⅱで足り、令和8年度中は対応することの誓約で算定可)。
企業の人事を15年やってきて、障害福祉の人事制度は3つから組み立てるのがいちばん現場に合う、と考えるようになりました。
①配置は単価になる。でも「本人に返す」は自動ではない
職員が資格を取り、研修を修了し、常勤になる。この動きが、そのまま加算の要件に直結する業種はほかにありません。福祉専門職員配置等加算、専門的支援加算、強度行動障害児支援加算——どれも「誰を配置しているか」で決まり、要件を満たして届け出た月から算定できます。
ただし、ここに落とし穴があります。配置加算で増えた事業所の収入を本人に返すことは、制度は求めていません。「資格を取ったのに給料は変わらない」という不満は、この設計が抜けている事業所で起きます。つなぐ経路は2本です。
| 経路 | 中身 | 制度上の位置づけ |
|---|---|---|
| A:処遇改善加算の配分ルール | 「介護福祉士取得で月◯円」「強度行動障害支援者養成研修修了で月◯円」を配分ルールと賃金規程に書く | キャリアパス要件Ⅲ(経験・資格・評価に基づく昇給の仕組み)として、加算Ⅲ以上の要件になる |
| B:配置加算の増分を手当に返す | 福祉専門職員配置等加算などで増えた収入の一部を、資格手当・専門職手当として賃金規程に置く | 制度上の義務はない。事業所の任意設計。だから設計している事業所が採用で強い |
Aは制度が要件として求めているもの、Bは事業所の任意設計です。Bまで設計している事業所は「あなたが資格を取ると事業所の収入がこれだけ増え、そのうちこれだけを返します」と説明できるので、採用と定着で強くなります。
実務上の注意が2つあります。配置加算は稼働率と職員構成で月ごとに変わるため、手当は加算増分の一部(全額ではなく)にし、加算が算定できなくなった月の扱いを規程に書くこと。固定化した手当を下げるのは労働条件の不利益変更になり、簡単にはできません。もうひとつ、賃金規程の作成・変更は社会保険労務士の業務です。当事務所は加算の要件と配分ルールの設計を担い、規程は提携先と連携します。人事の動きを届出につなぐ運用は加算要件チェック表の回し方にまとめています。
②評価は「支援の質」ではなく「行動」で測る
支援の成果は数字にしにくく、評価者はたいてい管理者1人です。だから、印象で決まる項目ではなく、記録で判定できる行動を評価項目にします。書き方の型はひとつで、「誰が・何を・いつまでに/どの頻度で・何に残す」の4点が入っていれば行動評価、入っていなければ印象評価です。
| よくある評価項目(抽象) | 行動に書き換えると |
|---|---|
| 記録が的確 | 支援記録を当日中に書き、利用者の様子・支援内容・気づきの3点が入っている |
| 個別支援計画を理解している | 担当利用者の計画のモニタリング期限の1か月前に、見直し案をサビ管・児発管に出している |
| 保護者対応が丁寧 | 連絡帳の返信を翌営業日までに行い、要望や不満を受けたら当日中に管理者へ共有している |
| 安全に配慮している | ヒヤリハットを24時間以内に報告し、月1回の振り返りに出席している |
| 研修に前向き | 年間計画の研修(虐待防止・身体拘束)に全回出席し、欠席時は翌月までに補講を受けている |
右側はどれも記録で確認できるので、評価者が1人でも成り立ちます。研修の出席や委員会への参加は、虐待防止措置・身体拘束適正化の要件そのものなので、評価項目に入れると「やっていない」が起きにくくなります。記録の有無は運営指導でも見られる項目です。
ここで、机上の空論にならないための注意を書いておきます。「当日中」「24時間以内」は実務の目安であって、制度上の期限ではありません。項目は1段階につき5〜7個まで。記録システムがない事業所では紙の転記が増えるので、基準は現場で守れる数字に置いてください。守れない基準は、守らない習慣を作ります。そして行動評価は「行動はしているが支援がうまくない」人を拾えません。そこはサビ管・児発管の観察と面談で補います。評価者の目線合わせは評価会議の6ステップをご覧ください。
③360度評価は入れない。代わりに上向きの矢印を1本
欠員のフォローや引継ぎで成り立つ現場では、周囲の評価と仕事ぶりは確かに連動しています。だから360度評価が有効に見えます。ただ、一般企業の型をそのまま持ち込むと壊れます。
| 一般企業の360度評価が前提にしているもの | 障害福祉の現場 |
|---|---|
| 匿名性(評価者が10人前後) | 職員5〜10人。誰が書いたか分かる |
| 評価者が同じ仕事ぶりを観察している | シフト制で同じ場面を見ていない |
| 主に管理職の育成用 | 現場職員全員に、処遇に使おうとする |
| 評価者の顔ぶれが安定 | 入れ替わりがあり、評価者が毎年変わる |
いちばん重いのは1行目です。匿名性が保てない集団で360度評価を処遇に使うと、評価が「人間関係の投票」になります(当事務所の見解)。声の大きい人、古株、管理者に近い人が高くなる。それは協働の評価ではなく、序列の可視化です。
だから協働は、記名で「良い点1つ+要望1つ」の相互フィードバックとして、賃金からは切り離します。初回は外部が同席し、人格ではなく行動で書く例文を渡し、年1回から始めます。
そして本当に効くのは、現場から管理者・サビ管への上向きフィードバックです。管理者1人の職場には、上司を見る仕組みがゼロだからです。ただし、受け手を管理者本人にすると防御的になり、誰が書いたか分かる規模では報復の懸念が消えません。受け手は法人代表か外部にします。代表が管理者を兼ねる小規模事業所では、外部が集約する設計が前提です。
障害福祉の退職理由——数字で見ると、設計が変わります
介護分野の調査を障害福祉に当てはめるのは正確ではないので、障害福祉固有の資料を引きます。福祉医療機構の「2020年度 障害福祉サービス事業所等の人材確保に関する調査」(貸付先543法人552事業所、2019年度に定年退職以外の退職者が出た334事業所、事業所側が把握した理由・複数回答)では、退職理由は次のとおりでした。
| 退職理由(複数回答) | 割合 |
|---|---|
| 体調不良 | 37.1% |
| 職場の人間関係 | 31.7% |
| キャリアアップを目的とした転職 | 26.3% |
| 賃金水準 | 11.4% |
| 運営等への不満 | 9.9% |
| 結婚/出産・育児 | 8.7%/7.8% |
| 不明 | 24.0% |
注目していただきたいのは、1位が「体調不良」だということです。人間関係は2位。この数字は、②の行動評価で記録の負荷を増やすと逆効果になりうること、そして人事制度に配置とシフトの負荷設計を組み込む必要があることを示しています。
この調査には限界があります。事業所側の回答で本人調査ではないこと、2019年度のデータであること、居住系が約4割で偏りがあること、上司起因の内訳がないこと。障害福祉で「上司が原因」を示す本人調査は、当事務所では確認できていません。だから③の上向きフィードバックは、統計ではなく「人間関係が上位」「管理者1人の構造」から導いています。
令和8年6月から、配分の対象が広がりました
令和8年度の期中改定で、処遇改善加算の配分対象が「福祉・介護職員」から障害福祉従事者に広がりました。事務職員や送迎の運転手にも配れます(厚生労働省「令和8年度障害福祉サービス等報酬改定における改定事項について」。2026年9月18日確認)。配分ルール=人事制度の範囲も、それだけ広がったということです。制度対応として計画書を書くか、人事制度として設計してから計画書に落とすか。書類は同じでも、3年後の職場は違います。改正の全体は令和8年度の処遇改善加算はこう変わったをご覧ください。
配分ルールと賃金規程を、1本の設計として
処遇改善加算の計画書、賃金規程、評価シート、上向きフィードバックの受け皿。これらは別々の書類ですが、ひとつの人事制度です。当事務所では、企業人事15年と国家資格キャリアコンサルタントの立場から、配分ルールの設計、行動基準の作成、評価会議の初回ファシリテーション、上向きフィードバックの外部集約をお受けしています。賃金規程は提携社会保険労務士と連携します。
60分の無料相談で、いまの処遇改善加算の区分と計画書、評価の現状を伺い、3つの柱のどこから手を付けるかを整理します。処遇改善計画書の控えと、いまの評価シート(あれば)をご用意ください。ご依頼にならなくて構いません。オンラインで全国対応です。運営中の事業所さまへ、またはお問い合わせフォームからどうぞ。
参考にした一次資料
- 厚生労働省「令和8年度障害福祉サービス等報酬改定における改定事項について」(処遇改善加算の配分対象を障害福祉従事者へ拡大。2026年9月18日確認)
- 厚生労働省 福祉・介護職員等処遇改善加算に関する通知・Q&A(令和8年度。キャリアパス要件Ⅰ=任用要件・賃金体系、Ⅱ=研修、Ⅲ=経験・資格・評価に基づく昇給の仕組み。Ⅲは加算Ⅲ以上の要件。令和8年度中は誓約で算定可)
- 福祉医療機構「2020年度 障害福祉サービス事業所等の人材確保に関する調査について」(貸付先543法人552事業所。退職理由:体調不良37.1%・職場の人間関係31.7%・キャリアアップ転職26.3%ほか。事業所回答・複数回答。2026年9月18日確認)
- 当事務所の企業人事15年(人材企画、HR・労務・総務課長職)および国家資格キャリアコンサルタントとしての実務。「当日中」「24時間以内」「5〜10人」は実務の目安、360度評価に関する記述は当事務所の見解
※制度・要件・金額は改正や自治体の運用で変わります。上記は確認時点のものであり、実際の手続きの前には必ず最新の告示・要領および指定権者の案内をご確認ください。
📍 千葉県ローカルメモ|千葉県内の事業所さまへ
松戸・市川・流山の放デイ・児発・生活介護・グループホームは、いずれも職員5〜15人規模が多く、この記事の「評価者は管理者1人」「匿名が保てない」がそのまま当てはまります。処遇改善加算の計画書は千葉県(障害児は障害児支援事業指定班)へ提出し、体制届は毎月15日必着で翌月1日適用です。配分ルールの設計は、計画書の提出時期から逆算してご相談ください。
※2026年7月23日時点の一般的な整理です。個別の管轄・最新の運用は各窓口にご確認ください。
💬 目加多のひとこと
この記事は、最初の案で2つ間違えました。「本人の給料が増えることは制度は決めていない」と書きかけて、処遇改善加算のキャリアパス要件Ⅲが昇給の仕組みを求めていることを見落としました。離職理由に介護分野の調査を使いかけて、障害福祉の調査に差し替えました。どちらも指摘を受けて直しています。人事制度の話は、制度の事実と現場の実感を両方持っていないと、机上の空論になります。その両方を、この記事に置いたつもりです。

執筆・監修
目加多 龍めかた りょう
行政書士 × 財務・キャリアコンサルタント(目加多龍行政書士事務所 代表)
行政書士/国家資格キャリアコンサルタント/2級FP技能士(AFP)。ブリヂストン系列企業とNEC系列企業で人事・労務の現場15年を経て2026年に独立。個人向けキャリア相談はココナラで約70件・全件★5.0(プラチナランク・2026年7月時点)。障害福祉・障害児支援の指定申請を軸に、資金調達から人材の定着まで、中小企業の「手続き」「資金」「人材」を一体で支援しています。
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