— 30秒でわかる結論 —

Q. 人事評価の「9ブロック」とは何ですか?どんな会社に向いていますか?

縦軸に成果(業績)、横軸にポテンシャル(伸びしろ)をとり、それぞれ3段階に分けた3×3のマス目に社員を1人ずつ配置する手法です。通常の評価制度が「今期どうだったか」を見るのに対し、9ブロックは未来の軸を加えることで、「成果は高いが伸びしろは限定的な人」と「まだ成果は出ていないが伸びしろが大きい人」を分けて打ち手を変えられます。向いているのは、社長が全員を把握できなくなる50人前後を超え、かつ事業が複数ある会社です。事業部ごとに「優秀」の意味が変わるなかで全社の人材を1枚で俯瞰でき、とくに新規事業へ誰を配置するかの判断材料になります。運用の鉄則は3つ——本人には見せない、賃金・賞与とは別レイヤーに置く、事業部長が1人で置かず全社の会議で議論しながら置く。解雇や退職勧奨の根拠にすることは想定されていません。

こんな方に読んでいただきたい記事です

  • 従業員が50人を超え、社長が全社員の顔と特性を把握しきれなくなった会社の経営者の方
  • 事業部が複数あり、誰を新規事業に配置するかの判断材料がほしい方
  • 評価制度はあるが、育成と配置に結びついていないと感じている人事担当の方

9ブロックとは——成果とポテンシャルの3×3で人材を俯瞰する

人事評価の「9ブロック(ナインボックス)」は、縦軸に成果(業績)、横軸にポテンシャル(伸びしろ・将来性)をとり、それぞれを3段階に分けた3×3のマス目に、社員を1人ずつ置いていく手法です。タレントマネジメントの分野で広く使われています。

ふつうの評価制度は「今期どうだったか」を1本の軸で採点します。9ブロックが違うのは、もう1本、未来の軸を持ち込むことです。この2軸で見ると、「成果は出ているが伸びしろは限定的な人」と「まだ成果は出ていないが伸びしろが大きい人」がはっきり分かれ、打ち手がまったく変わります。

9つのマスと、それぞれの打ち手

ポテンシャル 低ポテンシャル 中ポテンシャル 高
成果 高
高成果・現職のプロ
いまの職務で高い成果。専門性で処遇し、後進の育成役に。無理に管理職にしない
次世代の中核
成果も伸びしろもある。他事業への異動で幅を広げる
次期リーダー候補
最優先の育成対象。修羅場経験と後継者計画に乗せる
成果 中
安定人材
いまの職務を堅実に。役割の明確化と定着施策
中核人材(最多数)
会社の背骨。成長機会を与えて⑥⑧へ動かす
成長途上の期待株
成果が出ていないのは配置の問題かもしれない。役割を変えてみる
成果 低
要改善
期待とのギャップを面談で具体的に。改善計画と期限を設定
ミスマッチの疑い
能力はあるが噛み合っていない。配置転換を先に検討
配置ミスの可能性大
高いポテンシャルが活きていない。上司・職務・事業の相性を疑う

大事なのは、マスに置くことが目的ではないということです。目的は、9つそれぞれに違う打ち手を用意すること。⑨には修羅場経験を、⑦には専門職としての処遇を、③には配置転換を。同じ「評価が低い」でも、①と③ではやるべきことが正反対です。

なぜ50人以上・多角化した会社で効くのか

10人の会社なら、社長の頭の中に全員の顔と特性が入っています。9ブロックは要りません。効いてくるのは、次の3つが同時に起きたときです。

  • 社長が全員を把握できなくなる(およそ50人)——事業部長の報告でしか人材が見えなくなる。9ブロックは、全社の人材を1枚の紙に載せる装置になります。
  • 事業が複数になる——営業部門の「優秀」と製造部門の「優秀」が別の意味になる。同じ2軸で並べることで、事業をまたいだ比較の土俵ができます。
  • 人を動かす必要が出る——多角化企業の最大の強みは、人材を事業間で動かせることです。誰を新規事業に出すか、誰を残すか。この判断に、成果だけの評価では材料が足りません。

とくに新規事業への配置で、9ブロックは威力を発揮します。立ち上げ期の事業は成果が数字で出にくいため、成果評価だけだと優秀な人ほど行きたがりません。ポテンシャル軸で⑧⑨と評価された人を、成果の物差しとは別に「動かす」判断ができる——これが多角化企業に必要な理由です。

ポテンシャルを、どう測るか

9ブロックがうまくいくかどうかは、横軸の定義で決まります。「なんとなく将来性がありそう」では、評価者の好みになります。私は次の3つで見ることを勧めています。

観点見るもの
学習の速さ新しい業務・新しい環境で、どれだけ早く立ち上がったか。過去の異動・新規業務の実績で見る
影響の広がり自分の担当を超えて、周囲や他部門を動かした場面があるか
変化への向き合い方想定外の事態、失敗の後の行動。順調なときではなく、うまくいかなかったときを見る

逆に、ポテンシャルの判断材料にしてはいけないのが、年齢・勤続年数・学歴、そして「上司との相性」です。ここが混ざると、9ブロックはただの好き嫌いの表になります。

運用の3つの鉄則

  • ①本人には見せない——9ブロックは経営が人材配置を考えるための道具であり、本人への通知票ではありません。「あなたは③です」と伝えても、何も生みません。本人に返すのは、9ブロックそのものではなくそこから導いた具体的な期待と機会です。
  • ②評価制度とは別レイヤーに置く——等級・賃金・賞与を決めるのは通常の評価制度です。9ブロックは、その結果を材料に人材レビューの場で使うもの。報酬に直結させると、ポテンシャル評価が政治化します。
  • ③1人で置かない。会議で置く——事業部長が自部門だけで配置すると、甘辛がそのまま出ます。全事業部長と経営が集まり、1人ずつ議論しながら置く。このすり合わせの会議こそが本体で、完成した表はその副産物です。

③の会議は、年1回・半日で構いません。ただし、事業部長が「うちの部門は全員⑧⑨です」と言い出したときに、経営が「では他部門と比べてどうか」と問える設計にしておくこと。ここが多角化企業でいちばん揉め、いちばん価値の出るところです。

やってはいけない使い方

  • 解雇や退職勧奨の根拠に使う——9ブロックは育成・配置のための道具です。人事上の不利益な取扱いの根拠として使うことは想定されていませんし、法的にも危うい。①のマスに置かれた人に必要なのは、具体的な期待の伝達と改善の機会です。
  • 分布を先に決める(相対評価にする)——「⑨は5%まで」と枠を決めると、議論が枠の奪い合いになります。分布は結果として見るもので、目標ではありません。
  • 一度置いて終わりにする——人は動きます。年1回、必ず置き直してください。前年と比べて動いた人・動かなかった人を見ることが、施策の効果測定になります。
要確認:9ブロックは人材の配置・育成を検討するための枠組みであり、賃金の決定や人事上の不利益な取扱いの直接の根拠とすることは想定されていません。評価結果を賃金・処遇に反映する制度変更は、不利益変更などの法的論点を伴う場合があります。就業規則・賃金規程の作成と届出、労働時間や賃金の法的な取扱いは社会保険労務士の業務です。当事務所は制度の設計・運用支援と評価者訓練を担い、規程面は社会保険労務士と連携します。

導入の順番——評価制度が先、9ブロックは後

9ブロックを入れたいという相談を受けると、私はまず等級と評価制度の状態を確認します。成果の評価が事業部ごとにバラバラなまま9ブロックを載せても、縦軸が信用できないからです。順番はこうです。

  • ①等級を全社共通で定義する(制度は何人から必要か
  • ②成果評価の比率とルールを共通化し、事業部間の調整会議を置く
  • ③そのうえで、年1回の人材レビューに9ブロックを持ち込む
  • ④各マスの打ち手(異動・研修・面談・専門職処遇)を決めて実行する
  • ⑤翌年、置き直して動きを見る

④の実行が伴わなければ、9ブロックは「きれいな表を作っただけ」で終わります。私が支援するときは、表を作る半日より、その後の打ち手を誰がいつやるかを決める時間を長く取るようにしています。

当事務所の関わり方

人事責任者(課長)として制度を運用した経験と、国家資格キャリアコンサルタントとしての面談設計を組み合わせて、ポテンシャル軸の定義づくり、人材レビュー会議のファシリテーション、各マスに応じた面談の設計までをお手伝いしています。人材確保(採用・定着)コンサルティングからご相談ください。

参考にした一次資料

  • 人事実務15年(法人営業3年・人事労務総務13年〈最終2年は人事責任者〉・人財企画部主任2年)の経験にもとづく運用論
  • 当事務所「人材採用・定着 実務ガイド」(2026年8月版)

※制度・要件・金額は改正や自治体の運用で変わります。上記は確認時点のものであり、実際の手続きの前には必ず最新の告示・要領および指定権者の案内をご確認ください。

📍 千葉県ローカルメモ|介護・障害福祉の法人が多角化するとき

通所介護から生活介護へ、放課後等デイサービスからグループホームへ——事業を増やす法人でも同じことが起きます。この分野に固有なのは、サービス管理責任者や児童発達支援管理責任者など資格要件のある職種があることです。資格の有無は「成果」でも「ポテンシャル」でもないため、9ブロックとは別に、資格取得の計画表を持つことをお勧めします。誰にいつ研修を受けさせるかは、人員基準の維持に直結します。

※2026年7月23日時点の一般的な整理です。個別の管轄・最新の運用は各窓口にご確認ください。

💬 目加多のひとこと

9ブロックを入れた会社で価値が出るのは、きれいな表ができたときではなく、事業部長どうしが「その人がうちに来たら伸びるかもしれない」と言い始めたときです。人材を自部門の持ち物ではなく会社の資産として見る——その会話が起きれば、表は捨てても構わないと思っています。

行政書士 目加多龍

執筆・監修

目加多 龍めかた りょう

行政書士 × 財務・キャリアコンサルタント(目加多龍行政書士事務所 代表)

行政書士/国家資格キャリアコンサルタント/2級FP技能士(AFP)。ブリヂストン系列企業とNEC系列企業で人事・労務の現場15年を経て2026年に独立。個人向けキャリア相談はココナラで約70件・全件★5.0(プラチナランク・2026年7月時点)。障害福祉・障害児支援の指定申請を軸に、資金調達から人材の定着まで、中小企業の「手続き」「資金」「人材」を一体で支援しています。

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