— 30秒でわかる結論 —

Q. 「辞めます」と言われたら、昇給を提示してでも引き止めるべきですか?

慎重に考えることをおすすめします。退職の申し出は、多くの場合意思決定が終わった後の「報告」であり、転職先が決まっていることも珍しくありません。この段階での昇給提案(カウンターオファー)は、①「辞めると言わないと評価されない会社」というメッセージになる、②残ってもらえても不満の根は残る、③周囲に「辞意を示せば条件が上がる」という学習が広がる——という副作用を伴います。効くのは、切り出される前の面談と処遇の納得感づくりです。

大切な社員から「お話が…」と会議室に呼ばれる。あの瞬間の対応を間違えたくない気持ちは、経営者なら誰でも持っています。でも本当の分かれ目は、その会議室の中ではなく、そこに至る半年前にあります。

申し出は「相談」ではなく「報告」である

退職を切り出す側の心理を想像してください。何週間も悩み、家族と話し、多くは転職活動を終え、内定を持って臨んでいます。つまりテーブルに乗るのは決定事項。ここで初めて「実は君を評価していた」「来期は昇給を考えていた」と伝えても、本人にはこう聞こえます——「辞めると言わなければ、その評価は伝えられなかったのですね」。

カウンターオファーの3つの副作用

信頼の逆効果:後出しの好条件は、これまでの処遇への不信を強めます。②根が残る:辞めたい理由が人間関係や仕事内容なら、給与で残っても解決していません。しばらくして再び退職を申し出るケースは、実務でよく見る展開です。③組織への誤学習:引き止め条件は必ず漏れます。「辞意を示した人が上がる」と知った職場で、まじめに働く人の納得感はどうなるでしょうか。もちろん、誤解が原因の退職など対話で解ける例外はあります。ただ、それは「条件の上乗せ」ではなく「対話」で解けたのです。

勝負は「切り出される前」——予兆は面談でしか拾えない

退職の意思決定には、不満の蓄積→転職の検討→活動→内定→申し出、という長い助走があります。打ち手が効くのは助走の前半だけ。そして前半の迷いは、日常の1on1や第三者によるキャリア面談でしか表に出てきません。「最近どう?」ではなく、キャリアの希望と現状のギャップを定期的に言葉にする場——それが、会議室での急転直下を防ぐ唯一の仕組みだと感じています。

それでも申し出があったら——「残す」より「学ぶ」

実際に切り出されたら、まず感謝とともに理由を丁寧に聴くこと。翻意を迫る場ではなく、組織が学ぶ最後の機会と捉えます。円満な送り出しは、残るメンバーへのメッセージであり、出戻り採用(アルムナイ)や取引先としての再会につながることもあります。去り際の扱いは、必ず社内に見られています。

💬 目加多のひとこと

人事時代、引き止めに成功した社員の多くが1年以内に再び退職届を持ってきました。以来、私の結論はシンプルです——引き止めは「制度」ではなく「例外」。会社が設計すべきは、辞意が固まる前に本音が出る面談の仕組みのほうです。セルフキャリアドックは、まさにその装置として機能します。

まとめ

カウンターオファーは遅く、副作用も大きい。勝負は切り出される前の面談と処遇の納得感です。1on1の設計、第三者によるキャリア面談、評価制度の見直しまで一体で支援します。初回相談60分無料。松戸・柏・流山・船橋・市川をはじめ首都圏の中小企業を支援しています(オンラインで全国対応も可)。